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M&A・会社売却の相場は?売却価格の基準を解説

M&Aを検討する際に知っておきたいのが「企業価値の相場」。
相場を知らなければM&Aの見積りを見ても、高いのか安いのかさえ判断がつきません。
また、相場を知っていても企業価値が正しく算出できていなければ、損する可能性もあります。
M&A締結後に「もっと高く売却できたの!?」「もっと安く買収できたかもしれない!」と、嫌な驚きを味わいたくはないですよね。

今回のコラムでは、M&Aで企業価値を決める要素や企業価値の算出方法、M&Aを有利に進めるコツについて紹介します。
このコラムを読んで、提案されたM&A価格が適正か見極められるようになりましょう!

このコラムに出てくるキーワードの解説

相場 市場で取引される商品や株式などの値段。時価。市価
企業価値 企業全体の価値。有形・無形の資産を含む

M&Aに相場はない!?売り手と買い手の目線の違い

まず始めに結論から伝えると、M&Aに相場はありません。

企業の価値は目に見える数字だけで測れるものではありません。
利益がまったく同じ額の企業があったとしても、それぞれの取引先の数や従業員の質、保有する技術などまで同じケースはあり得ないからです。

また、あなたがM&Aの「売り手」か「買い手」かによっても算出される企業価値は変わります。

売り手はより高く売るのを目標に、買い手はより安く買うのを目標に交渉を進めるのが一般的です。
売り手は、いままで一生懸命に育ててきた会社を手放します。
そのため会社を売却した後も多くの利益を生み出してくれるはずだと、主観的な評価をしてしまい適正価格よりも高く企業価値を見積もる傾向にあるのです。

一方で、買い手はM&A後のリスクを最大限考慮して企業価値を算出します。
取引先や従業員の減少などがあれば、M&Aを実施する前よりも業績が悪化する可能性もあるため、買い手は適正価格よりも低く企業価値を見積もる傾向にあるのです。

つまり企業価値は、目に見える数字のみで判断できるものではないほか、価値を算出する立場によっても金額が変わるため、M&Aに明確な相場はないと言えるのです。

M&Aで企業価値を決める6つの要素

M&Aで企業価値を決める要素は6つあります。

  • 取引先・顧客
  • 従業員
  • 市場シェア
  • 技術力・ブランド
  • 経営者の人間性やビジョン
  • M&A後に見込まれる利益

売上や利益といった目に見える数字だけでは企業価値は算出できません。

数字という客観的な事実から価値を算出するのも重要ですが、あなたが「売り手」であれば、数字のみで算出した金額でM&Aを実施すると大きな損をしてしまいます。
今回の章では、M&Aで企業価値を決める6つの要素を、売り手の目線で紹介します。

取引先・顧客

まずM&Aで企業価値を決める要素の1つ目は「取引先・顧客」です。
あなたの会社の取引先や顧客で、まだ買い手企業と取引のない会社や個人がいれば、買い手企業にとっては大きなメリットがあります。

新規取引先や顧客を開拓するためには、膨大な時間とお金がかかるものです。
しかしM&Aを実施すれば、取引先や顧客を開拓する手間を省けるほか、信頼関係を構築する時間も短縮できます。

つまり「新規取引先・顧客の開拓時間や費用を削減できるメリット」を買い手企業に提供できるため、取引先や顧客はあなたの会社の価値と考えられるのです。

従業員

2つ目の要素は「従業員」です。

たとえば、とある企業が新規事業へ算入を考えている場合、まずはその事業の知識や技術力のある従業員を集めるところから始めなければなりません。
しかしM&Aを実施すれば、新しい分野への知識や技術力を持った従業員が手に入るほか、その会社独自のノウハウが構築されているケースもあるので、新規事業への算入がスムーズに行えます。

つまり知識や技術を持つあなたの会社の従業員も、企業価値の一部だと考えられるのです。

市場シェア

3つ目の要素は「市場シェア」です。

あなたの会社がすでに一定の市場シェアを保持していれば、買い手企業はM&A後も順調にビジネスを展開できるでしょう。
特に、買い手企業が新規事業への算入を目的にM&Aを実施するケースでは、市場シェアは企業価値を決める重要な要素となります。

技術力・ブランド

4つ目の要素は「技術力・ブランド」です。

あなたの会社に、他社には真似できない技術があれば、その技術力に買い手企業は大きな魅力を感じるでしょう。
また、特定のブランドには熱心なファンがついているケースも珍しくありません。
顧客がブランドのファンになる理由はさまざまですが、その企業しか持っていない技術に魅力を感じてファンになるケースには、あなたも心当たりがあるのではないでしょうか。

あなたの会社に確かな技術やファンを獲得できるブランドがあれば、大きな企業価値となるのです。

経営者の人間性やビジョン

5つ目の要素は「経営者の人間性やビジョン」です。

M&A後、売り手企業の経営者が残留するのか、引退するのかは買い手企業との話し合いによって決定します。
売り手企業の経営者や従業員が残留し、買い手企業の一員となるのであれば、買い手企業にとって売り手企業の経営者の人間性やビジョンは重視すべき点です。

たとえば買い手企業では「量より質」、売り手企業では「質より量」で事業を行っていたとしたら、認識のズレや行き違いがある可能性が考えられます。
このように売り手と買い手のビジョンが異なるケースでは、経営陣や従業員同士の衝突リスクを考慮して、買い手企業から企業価値を低く見積もられるかもしれません。

M&A後も順調に経営を進めていくために、経営者の人間性やビジョンも企業価値の一部として重視されます。

M&A後に見込まれる利益

最後にM&Aで企業価値を決める要素の6つ目は「M&A後に見込まれる利益」です。
中小企業であれば、以下の計算式でM&A後に見込まれる利益を計算します。

M&A後に見込まれる利益 = 時価純資産額 + 過去3年分の営業利益の平均額 × 3~5年分

買い手企業は新規事業参入・販路拡大など、いまよりも事業を拡大させるためにM&Aを実施します。
売り手企業の事業も、M&A後は現在と同じあるいは現在以上に利益を生み出すと考えるのが一般的です。
そのため、売り手企業がM&A後に買い手企業にもたらしてくれるはずの利益をあらかじめ計算し、M&A時の企業価値の算出を行うのです。

M&Aで企業価値を算出する3つの方法

M&Aで企業価値を算出する方法は3つあります。

  • コストアプローチ
  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ

企業価値を算出する際の最大のネックは、どの方法を使用するかによって最終的な金額が変わってしまう点です。
同じ企業の価値を算出しても、上記3つの方法でアプローチすれば、それぞれ異なる金額が算出されます。
つまり企業価値を算出する際には、複数の方法から最適なものを選ばなければ損する可能性があるのです。

今回の章ではM&Aで企業価値を算出する方法とそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。

コストアプローチ

まず1つ目の方法は「コストアプローチ」です。

コストアプローチは純資産を用いて企業価値を算出する方法です。
純資産は、総資産と総負債を簿価あるいは時価で計算し、総資産から総負債を引いて求められます。

メリット
  • 純資産を用いるため評価の平等性が高い
  • 計算が簡単
デメリット
  • 将来的な収益が考慮されていない
  • 価格変動が考慮されていない

コストアプローチは、今回紹介する3つの方法のうちもっとも簡単な計算方法です。
一方で、売り手企業が将来的に生み出す利益が考慮されていないため、企業価値は低く算出される傾向があります。
コストアプローチのみで算出した金額では、売り手企業側が納得しないケースが多く、前章で紹介した「M&A後に見込まれる利益」を上乗せするケースが一般的です。

インカムアプローチ

2つ目の方法は「インカムアプローチ」です。

インカムアプローチには、DCF法(Discounted Cash Flow)・収益還元法・配当還元法などがありますが、DCF法が一般的に使用されます。
DCF法は、M&A後に予想されるキャッシュフローを、リスクを考慮した割引率で調整して企業価値を算出します。

メリット
  • 売り手企業の将来性も反映される
  • 売り手企業固有の性質も反映される
デメリット
  • 将来的な収益が予想できないと使用できない
  • 主観的になりやすい

インカムアプローチは、売り手企業の将来的な利益も計算に反映されます。
そのためM&A時には赤字の企業でも、固有の技術やブランドがあれば将来的には利益が見込めると判断され、M&Aが成約できるケースもあるのです。
一方で、売り手企業の将来的な利益は事業計画書を元に算出するため、作成者の主観が強い事業計画書であれば正しく企業価値を算出できない点に注意が必要です。

マーケットアプローチ

最後に3つ目の方法は「マーケットアプローチ」です。マーケットアプローチには、類似会社比較法(マルチプル法)、類似取引比較法、市場株価法などがあります。

類似会社比較法は、売り手企業と同業種かつ類似規模の上場企業の株価を参照する方法、類似取引比較法は過去に実施されたM&Aから類似する取引を参照する方法です。
なお市場株価法は、上場企業のみ使用できる方法で、直近1~3ヶ月程度の平均株価から企業価値を算出します。

メリット
  • 実際の株価を反映させるため客観性が高い
  • 直近の市場動向を反映させられる
デメリット
  • 市場の影響により評価が変わるリスクがある
  • 類似する会社や取引がないと使用できない

マーケットアプローチは、類似する会社や取引、市場株価を参照する方法のため客観性の高い企業価値が算出できます。
一方で、類似する会社や取引がない、あるいは少ないとマーケットアプローチ最大のメリットである「客観性」を保持できなくなるデメリットがあります。
また、売り手企業の市場や売り手企業そのものに関してマイナスなニュースが発信された場合は、算出した企業価値と実際の企業価値に大きな差が生まれる可能性がある点に注意してください。

高く売る・安く買う!M&Aを有利にするコツとは?

売買において売り手側はより高く、買い手側はより安くと考えるのは当然のことです。
特にM&Aは多額の金銭が動くため、より自分に有利に取引を進めたいという意識は強く働くでしょう。
今回の章では、売り手・買い手の両方の面からM&A取引を有利にするコツを解説します。

高く売るためのコツ

M&Aであなたの会社を高く売るためのコツは以下の2つです。

  • 会社の魅力を正しく伝える
  • 適切な交渉方法を選ぶ

あなたの会社を高く売る方法1つ目は「会社の魅力を正しく伝える」です。

あなたの会社がいかに魅力的な価値を持っていたとしても、その事実が買い手企業に正しく伝わらなくては、あなたの会社の価値は低く見積もられてしまいます。
まずは、このコラムで紹介したM&Aで企業価値を決める6つの要素を参照して、あなたの会社の魅力をあなた自身が正しく把握しましょう。

あなたの会社を高く売る方法2つ目は「適切な交渉方法を選ぶ」です。
M&Aでの交渉方法は、個別交渉方式とオークション方式の2種類あります。

個別交渉方式は、M&Aを検討している企業の中から1社を選び、その選んだ1社とM&Aの交渉を行う方式です。
交渉の結果、M&Aの締結ができなかった際は振り出しに戻ってしまうデメリットがありますが、交渉がスムーズに進めば比較的早期に取引が完了するメリットがあります。

オークション方式は、M&Aを検討している企業を広く募る方式です。
オークション方式で締結したM&Aは途中で辞められないデメリットがありますが、比較的高く会社を売却できます。
買い手があなたの会社に魅力を感じれば、他の企業に買い取られまいと買取価格を高く提示してくれる可能性があるため、できるだけ高く会社を売りたいと考えている人におすすめの方法です。

安く買うためのコツ

M&Aで希望する会社を安く買うためのコツは「客観的な企業価値を算出する」です。

売り手企業は、いままで育ててきた会社をできるだけ高く売りたいと考えています。
そのため、現在の会社の魅力や将来的な利益の算出に客観的な目線が持てず、企業価値の算出が高く見積もられる傾向にあります。
売り手企業側が算出した企業価値を鵜呑みにしてM&Aを締結してしまうと、実際の企業価値よりも大きな支出になる可能性があるのです。

適正な価格で取引を行うためにも、売り手側・買い手側の双方で企業価値を算出し、取引価格の調整を行うことが重要です。

なお、できるだけ安く会社を買い取るために、売り手企業と交渉する方法もありますが、あまりおすすめはできません。
交渉がうまくいったとしても、残留となった売り手企業の経営者に不満を持たれるほか、従業員のやる気を損ねて、業務の引継ぎや運営に支障をきたす可能性があります。

M&A後の円滑な経営のためにも、適正価格よりも安い金額での取引は避けましょう。

まとめ

今回のコラムでは、M&Aで企業価値を決める要素や企業価値の算出方法、M&Aを有利に進めるコツについて紹介しました。
これまでの内容をまとめると以下のとおりです。

  • M&Aに相場はない
  • M&Aで企業価値を決める要素は6つ
  • M&Aで企業価値を算出する方法は3つ
  • 高く売るためには会社の魅力を正しく伝える
  • 安く買うためには客観的な企業価値を算出する

M&Aでもっとも重要なのは「売り手と買い手の双方が納得して」取引を行うことです。

会社が高く売れれば嬉しいですが、高く売れた分、M&A後にあなたの会社の能力以上の成果を求められる可能性があります。
反対に、会社を安く買い過ぎれば、残留する経営者や従業員の心象を損ねて円滑な経営が難しくなるでしょう。
「高く」「安く」という金額的な面に捉われずに、売り手と買い手の双方合意のうえで取引を進めていくのが、M&A後にも円満な経営が行える秘訣です。

今回のコラムではM&Aでの企業価値の算出についてさまざまな観点から紹介しましたが、実際に企業価値を算出するのは専門家でなくては難しいでしょう。

現在ではM&Aをサポートする企業も数多く存在しますが、経営者のもっとも身近な相談者である税理士もM&Aのサポートを行っている可能性があります。
また、税理士自身がM&Aに詳しくなくとも、M&Aサポート会社と取引を行っているケースもありますので、ぜひ1度、あなたの会社の企業価値を算出してもらえないか相談してみてください!